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  2. 福間師範 日常茶飯事 第三話

2016年秋号和風・掲載

 今年は四十度近い気温が続き、例年になく厳しく暑い夏でした。和風堂ではこの気候の中、各講習会、直門ごとに朝茶事について学ばれました。お茶の稽古を始めたばかりの方も、永年稽古を積んで来られた方も、茶事を学ぶことによって点前、作法の意味を理解し茶の楽しさが一層深くなっていくと思います。
 さて、今回は茶事の準備について話をすすめていきましょう。

【案内状】
 茶事を催す日時が決まるとまず案内状を差し上げます。客組を決め、前もってお電話などでご都合をうかがうと良いと思います。お客様の人数は五人くらいまでにしましょう。案内状は必ず自筆で書面にします。茶事の主旨(席披きとか年祝など)、日時、場所、相客一同の氏名を書きますが、様式はさして堅い定めというものはありません。ただ、その文中に必ず「粗茶一服差し上げたく…」を入れ、郵送します。
 『賓主録』の中には、案内状を目上の方にお出しする際、主人自らお客様のお宅にうかがい、案内状をお渡しするとか、お客様一人ずつに出すのではなく廻章といって全員のお客様に一通の案内状ですます方法などがあったようです。

【道具・献立を決める】
 客組が決まり、案内状を出したら道具組を考えていきます。まず茶事の主旨に合う掛物を決め、それぞれの道具を決めていきます。「亭主七分に客三分」という言葉もある通り、道具組を考えていくのは楽しいわけです。道具組をする上で、決して高価な道具が良いわけではありません。茶会の主旨、季節に合った道具の方が良いと思います。道具がないという方は、今自分が持っている道具を上手に取り合わせて使っていくことも大切なことだと思います。
 やっていくうちにわからないことなどあれば、自分の習っている先生や先輩にうかがってアドバイスを受けたらいかがでしょうか。いずれにせよ、自分で考えていくことは道具についての勉強にもなりますので是非おすすめします。
 『賓主録』の中には、肩衝茶入には棗、文琳・茄子には中次、雪の日の茶会には白い道具を使わない方が良いなどとありますので参考にしてください。
 道具組は頭の中で考えるよりは実際に置き合わせてみることも大切なことです。思わぬ良い取り合わせができることもあります。
 道具が決まったら会記を書いてみましょう。忘れ物をしないためのチェックにもなります。
 その後は献立を考えていきます。茶事に参加された方に、「お茶事はどうでしたか?」とうかがうと「美味しい料理でした」と答えられる方がきまっておられますが、懐石の本意は濃茶を美味しくいただくための「一時しのぎ」であって、ごちそうではありません。ですから自分の手作りが本来であって料理の苦手な方は、依頼する料理屋さんにその旨を伝えるべきと思います。その中でも何か一品作る努力をしてみませんか。
旬な食材が安価で入手しやすく最も美味しいわけです。献立は旬の食材を吟味し、それを様々な方法で調理すれば良いと思います。男性の方は奥様にお願いされてはいかがでしょうか。
献立の方も向、汁、煮物、焼物、小吸物、八寸、香物などと道具の会記と同様に献立表に書いておくことが大切です。

【掃除】
 茶事は露地、茶室の掃除から始まると言われ、念を入れて隅々までしなければなりません。露地の掃除は枯葉を掃き集め、雑草を取り除き汚れている木々の葉があれば清めていきます。蜘蛛の巣もあれば払い落としておきましょう。つくばいの水鉢、その周り、燈籠も清めておきます。露地の掃除が終わったらもう一度確認すると良いでしょう。
 茶室の掃除は、まずはたきをかけてほこりを落とし、ほうきで畳の目に沿って掃いていきます。ほうきで掃き集めたほこり、チリなどを取ってから雑巾がけをしていきます。和風堂では堅く絞った雑巾で畳、敷居、鴨居、柱などを拭いていきます。障子のさんや照明も忘れずに拭きましょう。

【その他、良く忘れがちなこと】
まず炭を寸法通りに切り、それを良く洗って乾かしておきます(盥いっぱいに水を入れ炭一本ずつをたわしで洗います)。天候によって乾きにくいこともありますので注意しましょう。濃茶、薄茶を注文します。懐石で使う菜箸(中節・止節)・蓋置・ホコ落しなど青竹のものは注文して納品まで日数がかかるので早めに注文しておきましょう。主菓子、干菓子の黒文字(四寸)、茶筅、柄杓、茶巾、香なども注文しておきます。
 道具類は畳に実際に置いてみること、料理は前もって作ってみること、掃除は終わった後、茶室に座り、露地は歩いてみることが忘れ物をしない、また確認にもなりますので実行してみてください。

 最後になりますが、茶事を催す場合、亭主はお客様にどのように美味しいお茶を点てることが出来るか、どれだけくつろいで一服のお茶を召し上がっていただき、楽しんでもらえるかを常々心掛けることが大切なことと思います。
 次回はお客様の心得、茶事当日の準備などお話ししましょう。


案内状 毛筆が良いですが、ペンで書いてもかまいません。直筆であることが最も大切です。

会記 道具や献立を書いておきます。後で分かるように図や絵を描くのもおすすめです。

料理は旬の食材を吟味して、できれば手作りで。

畳は堅く絞ったぞうきんで後ろ向きに移動しながら拭きます。