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  2. 福間師範 日常茶飯事 第五話

2017年春号和風・掲載

 前号で「誰かお茶事に招いていただけませんか」と書かせてもらったところ、年が明けて三つの茶会に招いていただきました。

〇もてなしの心が原点
 一つ目は岡山県井原市の華鴒大塚美術館での長庵茶会。井原市で上田宗箇流を学んでおられる井原遠鐘クラブ(男性のみ)の方々がお手伝いをされ、「大福茶」でお客様をもてなされました。私も宗箇様の好まれた四畳半茶室で三宝と熨斗飾・真手桶を持ち出しての大福茶をいただくのは初めての経験でした。
 二つ目は同じ日、竹原遠鐘クラブの会員の方が自宅の茶室で初釜の趣向でメンバーの方五名を招かれた正午の茶事に相伴させていただきました。待合から始まり炭手前は省略されましたが、お母様、奥様手作りの一汁三菜の懐石、中立の後の濃茶、薄茶と伝統的な正午の茶事でした。懐石の給仕、濃茶、薄茶、点前など全て亭主自ら一人でされました。
 三つ目は芸術家の青年が花の先生と一緒にギャラリーを使っての茶会。芸術家らしく空間(露地・茶室)、道具、菓子、茶会の流れを全て自分で考え企画、制作し催されました。数日催されましたが、最終日の翌日一客一亭で招かれました。茶会の中で彼は今回の茶会のテーマを「白」としただけあって空間は全て白。茶室の畳、畳の縁まで白でした。道具、菓子も自分が考えて発注しそろえたようです。
 白い壁に竹の花入が掛けてあり、赤い椿と枝物が入れてありましたが、私が席入すると椿の花が落ちました。白い砂利の上に落ちた赤い椿。何とも言えず印象的でした。
 三つの茶会それぞれの特色があって客としてよい経験ができました。一生懸命な思い入れ、もてなしの気持ちがお茶をおいしくさせる原点だと思います。

〇立案・実行・反省
 また、招かれるだけでなく、招く方でも三つ経験しました。
 一つ目は我が家で他流の方六名をお招きしました。料理方は家内が担当、水屋・点前は私が担当しましたが、二人で催す茶会でしたので露地の水打など、なかなか上手にできませんでしたが何とかお客様には喜んでいただいたと思います。ただ、女性の方はお点前が気になるようで、質問はほとんどお点前についてでした(ちょっと残念)。
 二つ目は二月の初めに「半月ノ会」で和風会初釜の濃茶席を担当し百五十名のお客様にお越しいただきました。男性だけで初めて水屋、点前主人、運び、外回りなど全てをいたしました。この茶会は、「オジサン達のお遊戯会」と銘打って、担当が決まってから幹部の方に集まっていただき、道具組や流れ配役を皆さんで考えていきました。複数の方とお茶席を担当する折には、何度もよく打ち合わせをしてお手伝いする方全員の意識の統一をする必要があります。
 道具組を考えている折、ある作家の図録を見ていますと、初釜にぴったりの水指が載っていました。それを使いたいと思っていたある日、茶会のお手伝いに来られた人に相談してみると「その水指なら持っている方を知っていますよ」とのこと。「念ずれば叶う」とはまさにこのことで、その方に相談して水指を借用でき、「オジサン達」の初陣にしてはよい茶会ができたと思います。ただし、茶会が終わってからの反省会がないのが残念なことです。
 三つ目はある雑誌社創刊六十周年読者イベントの茶会。「ひな祭り」が趣向で、和風堂全体を使っての茶会でした。募集定員は十名でしたが寒い季節と遠隔地ということもあってか三名の参加でした。私は道具組、料理の器、献立の打ち合わせ、菓子を担当し、亭主までさせていただきました。三人のお客様はそれぞれ違った所からお越しになり、お茶の経験もいろいろでその方々をお帰りいただくまでどうやって楽しんでいただくか、頭を悩ませました。が、和風堂という空間、伝来の道具の力、料理の素晴らしさをお借りして茶会を終えることができました。同時に少人数のお客様をお迎えする難しさを学びました。
 「招くこと」「招かれること」。言いかえれば亭主になり、客になり経験を積んでいき、立案・実行・反省を繰り返していくことで茶会は楽しくなっていく気がします。

〇お客様が来られるまでの準備
 さて、茶事当日亭主はまずお客様がいつ来られてもいいように隅々まで点検し掃除をして露地に水を打ちます。水の打ち方は季節によって異なり、夏秋は前日にしっかり打ち、当日は露地の木々の梢までよく打ちます。また寒い頃は前日には水は打たず、当日露地の掃除が終わってから打っておきます。ただしいずれも湿り加減に十分気をつけましょう。掃除が終わると釜を掛けます。炉、風炉、釜の大きさなど種々ありますが、およそ二時間前に掛かるくらいがよいようです(炉の季節は茶室の炉に直接掛け、風炉の季節は水屋の丸炉に掛けます)。炉の季節ですと炉に火を入れることによって茶室も暖かくなり炉中も暖まって炭手前をしても火が消えることはないでしょう。逆に風炉の季節は釜を掛けると茶室内が暑くなってしまうのでお客様が通られる直前に掛けます。
 お客様が来られる一時間ほど前に莨盆の火入の準備をします。夜咄なら行燈に火を入れて待合に出しておいて炉中の火の調子を確認して炭を足すなどして衣服を着替えます。
 お客様がお越しになられる頃まで(約三十分位前)に水を打ちます。
 また水を打つことだけではなく、蹲踞の水も気をつけなければなりません。よく蹲踞の水を張ることを忘れて慌てることもあります。お客様がお越しになられはじめましたら亭主は客の気持ちになってもう一度露地、茶室の飾、水屋のことなどを事細々再度点検して、白湯を半東の人に出してもらいます。

〇お客様がお越しになったら
 半東は白湯を全員に出したら「どうぞ腰掛待合までお通りください」と案内します(上田流では白湯の湯呑に茶卓を添えますのでお忘れなく)。お客様が腰掛待合へ通られると亭主は茶室内を座掃でゆっくりと掃き、片口を持って蹲踞を改め、片口を一度持ちかえってすぐに迎付に出ていきます。迎付を終え、茶室へ戻る時、露地に粗相がないか気をつけ、もしゴミなどがあればチリ箸でそれを取り、チリ穴に入れることもあります(チリ穴には内露地の木々の枝を二枝入れ、チリ箸を添えておきます)。
 寒い日は片口に湯を入れて湯桶石の上に置きます。お客様の中に高齢な方がおられる場合、十一月頃から湯桶を出してもよいでしょう(湯桶石は右、手燭石は左)。また迎付が終わって席へ帰る時に躙口を手がかりほどあけることを忘れないようにしましょう。
 さて次回は続いて茶事を説明していきます。


畳や畳の縁も白い茶室

ある稽古場でのひな祭り茶会の料理
ちらし寿司、アサリの味噌汁、分葱とイカのぬた

「念ずれば叶った」水指

大きなゴミはチリ穴へ入れます

寒い季節は湯桶を出します。湯桶石は右、手燭石は左