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  2. 福間師範 日常茶飯事 第二話

2016年夏号和風・掲載

「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」
 五月になると茶室も夏を迎えます。半年間楽しませてもらった炉をふさぎ、風炉を準備してお客様をお招きします。
 さて、茶の湯で正式にお客様をお迎えすることを茶事と言います。茶事には決められた流れがあります。まずそれを説明していきましょう。

【茶事の流れ】
・炉の季節(十一月~四月)
 初炭→懐石(中立)濃茶→後炭(※省略することもある)→薄茶

・風炉の季節(五月~十月)
 懐石→初炭(中立)濃茶→後炭(※省略することもある)→薄茶

 茶事の種類によって多少の違いはありますが、おおよそお客様がそろわれ茶室に入席するとまず炭手前があります。その後に一汁三菜の懐石を召し上がっていただきます。ここまでを初座(または初入)と言います。その後にいったん外に出て休憩を取ります。これを中立と言います。鳴物(銅鑼や喚鐘など)で知らせがあり再度茶室に入席します。これを後座(または後入)といいます。
 後座ではまず茶事で最も重要な濃茶があり、濃茶が終わる頃になると釜の煮も落ち始めるために炭を次ぐ後炭、最後に薄茶と続きます。
 茶事とは濃茶を本当に美味しく召し上がっていただくための流れになっています。初炭手前で火相、釜の湯相を整え、空腹では美味しい濃茶がいただけないので一時的に空腹をしのぐために懐石料理が用意されています。
 
 また、茶事には一年を通じて季節に応じ、一日を通じて朝昼晩の時刻に応じていろいろな客のもてなし方があります。

【茶事の種類】
・正午の茶事
 炉・風炉、いずれの季節でも催す茶事。式正の茶会と言われ基準となる茶事です。正午頃に案内をし昼食をいただいた後に御茶をいただく流れになっています。
・朝茶事
 風炉の季節七月~八月、盛夏の頃に催す茶事。早朝午前五時~午前六時頃に案内をし、朝食をいただいた後、日の昇りきらない午前九時頃終えます。
 「夏は涼しく」とあるように、露地には前夜から十分に水を打ち、障子も外してすだれをかけておきます。懐石も早朝のため淡白に一汁二菜とすることが多いです。

・夜咄
 炉の寒い季節、十二月~二月頃催す茶事で夜長を楽しみます。午後五時頃の案内で夕食を召し上がってから御茶をいただくことになっています。寒い頃催すため、手焙、火鉢、茶室の中では短檠や行灯、手燭などの燈火類を使い ます。千宗旦は「夜咄にて上り候」と言われるほど難しい茶事です。

・暁の茶事
 炉の最も寒い季節、夜の明け始める暁の風情を楽しみます。残光の茶事、夜込とも言われます。午前三時~四時頃の案内で朝食をいただき御茶をいただきます。

・飯午の茶事
 朝飯後と昼飯後と夕食後の三つの場合がありますが、朝飯後であれば午前九時頃、昼飯後であれば午後二時頃、夕食後であれば午後七時頃の案内で「菓子の茶湯」とも言われます。

・不時の茶事
 あらかじめ約束のない茶事のことで突然入来したお客様をもてなす茶事。

・跡見の茶事
 跡見というのは貴人や珍客をもてなした道具をそのまま使って御茶を振る舞うことを言います。客の方から特に所望のあった時に催されることが多いです。

 このたびは茶事の流れと種類をお話ししましたが、茶事の趣旨や動機は、亭主に応じて多種多様です。大きな演題でおもてなしをするのではなく、単に庭に花が咲いたとか、おもしろい道具を旅先で見つけたとか、身近で些細なことでお客様をおもてなしできるようになると茶事は楽しくなっていくのではないでしょうか。
 次回は茶事の準備についてお話しましょう。


五月になると茶室も夏を迎え風炉を準備します。

正午の茶事
式正の茶事と言われ、催す季節は問いません。

朝茶事
時期は盛夏の頃。暑さを避け日の出前に始めます。

夜咄
寒い季節に行います。蝋燭や火鉢が用いられます。